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視覚機能は鍛えられるのか?
前回までで、視覚には「見る力」以上の複雑な神経制御があることを書きました。 では、それを“どうトレーニングするか”?
「視覚神経を鍛える」というと抽象的ですが、実際は「目的に応じた神経経路を再学習・再連携させること」。 そのためには評価と同じくらい「適切な刺激と段階設定」が重要になります。
視覚トレーニングの目的分類
種類 | 目的 | 関連機能 | 神経系 |
---|---|---|---|
① 随意制御トレーニング | 意図的な視線操作を鍛える | サッケード・パースイート | 錐体路系(皮質→脳幹) |
② 反射制御トレーニング | 無意識の視線安定を強化 | VOR・視覚反射 | 錐体外路系(脳幹・前庭) |
③ 協調制御トレーニング | 複数系統の協調を改善 | VOR×追視/頭-眼協応 | 混合系(小脳・中脳) |
トレーニング前の基本評価
トレーニングに入る前に、「どこにズレや機能低下があるか」を明確にすることが鍵です。
✅ サッケード評価
- 方法:目標(2点)を素早く視線移動できるかを確認
- 指標:目のブレ、移動の速さ、ジャンプの正確さ
✅ 追視評価
- 方法:ゆっくり動くペンや指を目でスムーズに追えるか
- 指標:滑らかさ・カクつき・途中で視線が逸れるか
✅ VOR評価(ヘッドターン固視)
- 方法:頭を左右に振りながら、正面の目標を見続けられるか
- 指標:視線のズレ・反応速度・気持ち悪さの有無
✅ 協調評価(ミックス)
- 方法:頭を振りながら、左右に動くターゲットを目で追う
- 指標:視線の追従精度・目と頭の動きの同期
✅ Vergence評価
- 方法:ペン先を鼻に近づけて、二重になる距離や戻るタイミングをチェック
- 指標:輻輳開始点・開散反応・奥行きの自覚の有無
トレーニング例
✅ サッケード強化(随意系)
- 方法:2点間を素早く視線移動(ターゲットジャンプ)
- 応用:タイミング音や指示で不規則に切り替え
✅ 追視トレーニング(随意系)
- 方法:ゆっくり動かすペン先を滑らかに目で追う
- 応用:上下左右の方向や速度バリエーション
✅ VORトレーニング(反射系)
- 方法:頭部を左右に振っても視線をターゲットにキープ
- 応用:歩きながら・片足立ちなどで難易度UP
✅ 協調系トレ(VOR×追視ミックス)
- 方法:頭部を動かしながら、動くターゲットを追視
- 応用:交差運動・ジャンプ動作中のターゲット視認など
✅ Vergenceトレーニング(輻輳・開散)
- 方法:ペンをゆっくり近づけて、二重に見える直前まで寄り目
- 応用:距離を変えて数セット、スムーズに切り替えられるか観察
✅ ブロックストリングス(Brock Strings)
- 方法:複数のビーズを通したひも(片端を鼻先、もう片方を壁や手すり)を使い、各ビーズに焦点を合わせる
- 効果:両眼の輻輳・開散と深視力(奥行き)の自覚と調整力を鍛える
- 応用:片眼遮蔽、動的課題と組み合わせ、反応精度を上げる
トレーニング効果の見取り図
- サッケード精度UP → 視線移動の速さと正確さが向上
- VOR向上 → ランやターン中も視線がブレず動作が安定
- 協調力UP → 守備・スイング時のタイミングや反応速度が滑らかに
- Vergence改善 → 捕球・打撃時の「距離感」が明確に
まとめ:視覚神経の再学習は“動作の出力”を変える
目の動きを整えることは、「目のトレーニング」ではなく「脳と身体の連携の再構築」。 評価とセットで行うことで、“動作のなめらかさ”や“タイミングの安定”という明確な変化を起こせる。
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