はじめに
私たちは日々、無意識のうちに特定の「動きの癖」のなかで身体を使っています。それらの癖は、あるときは役立ち、あるときは制限となります。
フェルデンクライスメソッド(や他の身体技法でも)では、そうした癖に気づき、より自由で適応的な動きへと導いていくアプローチがとられます。そこには、単なる「柔軟な動き」以上の意味が隠されています。
今回は、「動きの癖を超えることが、どう身体的なレジリエンスの拡大につながるのか」について、書いてみたいと思います。
動きの癖とは何か?
動きの癖とは、過去の経験や繰り返しによって形成された無意識的な運動パターンのことです。
それは、ある特定の状況には適していたかもしれませんが、環境や目的が変わっても無意識に繰り返されると、動きの幅を狭め、適応性を下げる原因になります。
「適応的最適解」という考え方
私たちの身体は、本来とても柔軟です。状況ごとに異なる動き方ができるようにできています。
その中で、「その瞬間・その状況における最も自然で負荷の少ない動き方」を、適応的最適解と呼ぶことができます。
これは「正しい姿勢」「正しい動き」ではなく、今の自分の状態・環境・目的に合った最善の動き方を意味します。
α-γ連関と「気づき」の再教育
神経生理学の観点から見ると、こうした動きの再学習には「α-γ連関(アルファ-ガンマ連関)」と呼ばれる運動神経と感覚神経の協調システムが深く関わっています。
この連関は、筋肉の張力をコントロールし、動きの精度や滑らかさを左右する重要なメカニズムです。
動きの「止まり」に気づき、それを力まずに解除するというプロセスは、まさにα-γ連関を再教育する動きの練習でもあるのです。
身体的レジリエンスとは「選択肢の豊かさ」
ここで注目したいのが「身体的レジリエンス」という概念です。
これは、心のレジリエンスと同じように、変化や予測不能な状況に対して、身体が柔軟に対応し、元の状態に戻る力を指します。
フェルデンクライス的な動きの探求を通じて、
- どんな動き方ができるか(選択肢)
- それをどう感じ取り、選べるか(気づき)
- 状況に応じて、どう動きを切り替えられるか(適応)
こうした力が養われていくと、身体のレジリエンスが広がると考えられるのです。
まとめ
癖を解除し、動きの幅を広げること。
それは単なる「柔軟性」や「技術の向上」ではなく、自分の身体がその瞬間に応じて最適な選択ができるようになることに他なりません。
それこそが、身体的レジリエンスの本質ではないでしょうか。
日々の動きのなかで、小さな気づきと探求を重ねていくことで、私たちの身体はもっと自由に、もっと賢くなると考えています。
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