はじめに
ピッチャーのフォーム改善や痛みの改善に取り組む中で、ずっと感じてきた違和感── 「筋力や柔軟性の問題ではないのに、投球動作がどこか不自然になる」 「技術的な修正だけでは届かない感覚の詰まり」
そんな違和感の正体は、もしかすると“神経の切り替え”にあるのではないか。なんて思って調べたので整理してみた。
今回のテーマは、投球動作の裏で働く2つの神経系のチーム。 構えを作る「意識的な準備チーム」と、投げる動きを支える「無意識の自動実行チーム」。 この2チームの働きを物語風にまとめてみました。
ピッチャーの1球、その裏で!
ピッチャーがマウンドに立ち、セットポジションからゆっくりとステップに入る。
この瞬間、私たちはただ「投げる」という動作を見ているけれど、
実はその裏では2つの“神経チーム”が入れ替わり立ち替わりで働いています。
チーム1:狙って構える「準備チーム」
これは、トップ(踏み出し足の接地)までに働く神経セットです。
- ✅ 視覚系:ターゲットをしっかり見据え、固視する
- ✅ 錐体路(皮質脊髄路):肩・体幹・骨盤などを狙いに合わせて意識的にコントロール
- ✅ 前庭準備反応:体の傾きや回転を予測して、軸の安定を“先に”整える(網様体脊髄路・前庭脊髄路)
➡︎ このチームがしっかり機能すると、構えが決まり、フォームが整い、投げる方向が定まる。
チームⅡ:加速して出力する「自動実行チーム」
ここからは、トップ以降(リリース)で働く神経チーム。
- ✅ 伸張反射(筋紡錘):地面反力や肩の引き伸ばしによって、筋が勝手に収縮して加速する
- ✅ 小脳:動きを滑らかに調整し、力みにくくする
- ✅ 錐体外路(視蓋脊髄路・網様体脊髄路など):フォームの崩れを反射的に抑える
- ✅ VOR(前庭動眼反射):頭が回っても視線がブレず、ターゲットを見失わない
➡︎ このチームがうまく働けば、「勝手に投げさせられるように」スムーズな加速が生まれます。
この2チームの“切り替え”がスムーズだと、フォームは崩れない
意識でコントロールして「構える」と、
無意識で自動的に「出力される」が切り替わる──
このスイッチこそが理想的な投球フォームの神経基盤です。
逆に、
- 構えたあとも「どう投げよう」「腕をこう振ろう」と考えすぎてしまうと、
- 無意識の自動制御が阻害され、
- リリースが詰まり、力み、動きが止まる……
➡︎ これが“フォームの障害”や“投球制御の破綻”につながる神経的な説明にもなります。
神経チームの切り替えはスムーズ?
チェックしてみよう!
以下は、2つの神経チームの働きを簡単に評価できるセルフチェックリストです。
【チーム1:準備チーム(意識的制御)】
- □ 的を見ながら30秒間、視線をズラさず固視できる(固視)
- □ 頭を動かさずに、目だけで左右のマークを10回以上正確に往復できる(サッケード)
- □ 静止状態で構えたとき、ふらつきが少なく姿勢が安定している(前庭準備)
【チームⅡ:自動実行チーム(無意識制御)】
- □ 頭を左右に小刻みに振りながらでも、視線をブレさせず目標を見続けられる(VOR)
- □ 実際の動作中にフォームが詰まらず、滑らかに「勝手に動き出す」感覚がある(伸張反射+小脳)
- □ 頭が回転する動き(トップ以降)でも、視線がターゲットに向いたままになる
➡︎ 1つでも難しい項目があれば、「切り替え不良」の可能性あり。
自分の動きを“感覚”で振り返ってみよう
- トップで一瞬止まるような「間」がありませんか?
- リリースで“力んでしまう”感じはありませんか?
- 頭が回ると、ターゲットがブレて見失っていませんか?
➡︎ それは“切り替え不良”が起きているサインかもしれません。
神経の視点で、投球フォームを“再構築”する
「フォームが崩れる」というのは、
“身体の形”の問題ではなく、
“神経の切り替えとタイミング”の問題であることも多いのです。
だからこそ、
- 固視やサッケードで視覚の準備を整える
- ヘッドターン固視や歩行固視でVORを再学習する
- ターゲットの意識をリリース前に「切る」ことで無意識モードに入る
こうした視点が、“フォームの障害”や“投球の再現性の低下”といった問題の改善、ひいては各関節部位の改善にもつながるはずです。
まとめ
「投げる構え」と「投げる動き」は、
神経的に“まったく別チーム”が担当している。
これを理解したうえで評価し、トレーニングを組み立てられると、
選手の「投げる感覚」そのものが変わってきます。 そしてこれは、動作を“見た目”で捉えるだけでなく、 “神経制御”からアプローチすることで、結果的に適応的最適解としての投球フォームへとつながる道筋になると確信しています。
コメント