はじめに
「抜重」という言葉を初めて耳にしたのは、20年以上前、介護技術の講習会に参加していた時のことでした。
ドイツから来た講師の方が、実技中に何度も何かを強調して話していて、それを通訳の方が「抜重」と訳していました。
正直そのときは、意味もドイツ語の原文もわかりませんでしたが、不思議とその言葉だけがずっと耳に残っていました。
それから年月が経ち、今、野球のピッチング指導の現場でこの言葉の本質が少しずつ見えてきました。
それは、「力を入れて投げる」のではなく、力を“抜いて投げる”ことでエネルギーが生まれるという感覚です。
私はこの動きのことを「抜重(ばつじゅう)」と呼び、今まさに選手たちへの指導や、自分自身の身体感覚の中で再確認しています。
抜重とは何か?
「抜重」とは、文字通り「重さを抜く」こと。
しかし単なる脱力ではなく、意識的に力を抜いて床反力を引き出すための動きです。
ジャンプの前にしゃがんでから跳ぶ。
あの「沈み込み」も、反発を得るための抜重です。
ピッチングにおいてもうまく抜重できると、
- 体が自然と前に移動し
- 腕が力まずトップに上がり
- 骨盤が無理なく回る
といった一連の動きが、無理なく連続して起こります。
ピッチングにおける2つの抜重ポイント
① 軸足での抜重(体重移動の始まり)
足を上げたあと、よく「軸足でしっかり蹴れ」と言われます。
ですが私はこのタイミングで、**軸足の膝をほんの少し“抜く”**ようにしています。
すると、骨盤がスーッと自然に前方へ流れ始め、蹴らずに体重移動ができる感覚があります。
この流れの中で、腕がトップに向かうためのエネルギーも同時に生まれるのです。
② 前足の着地時の抜重
次のポイントは、前足が着地する瞬間です。
「しっかり踏み込め」「突っ張れ」とよく言われますが、私はここで少し膝を抜く意識を持っています。
わずかな抜きによって、膝が反射的に伸び、骨盤が自動的に回転を始める。
この感覚も、「自分で回す」のではなく、「自然に動き出す」感覚に近いです。
抜重の3つの大きなメリット
トップを無理に作らなくてよくなる
→ 腕が自然に上がることで肩の負担が軽減されます。
リリースにエネルギーを集中できる
→ 動作中の力みがなく、最後に最大の力を伝えられます。
ケガのリスクが減る
→ 無理なブレーキ動作が減り、肩や肘への負担が軽くなります
「正反対」に思えるかもしれません
これまで「しっかり踏み込め」「強く押せ」と教わってきた方には、
この抜重の考え方は一見、反対のように感じられるかもしれません。
しかし私は現場で、抜重を取り入れたことで、明らかに動作の質が変わった選手たちを多く見てきました。
もちろんすべての選手にすぐ効果があるわけではありませんが、
「力を抜くことで力が出る」という視点を持つことで、
怪我が減り、スムーズな動作が身につく可能性が広がります。
おわりに
「力を抜いて、力を引き出す」
この感覚は、これからのピッチング指導や選手育成において、非常に重要な要素だと感じています。
この感覚を掴むのにインディアンクラブなんかも使っています。
今度インディアンクラブについての記事も書こうと思います
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